2024年12月30日更新
画像のセグメンテーション
二次元画像のセグメンテーション技術は 2024 年現在でも進化を続けています。本ページでは、2015年~2024年の二次元画像セグメンテーション技術の進展を整理すると共に、画像セグメンテーションに取り組む際の注意点についてまとめましたので、参考にして頂ければ幸いです。
二次元画像セグメンテーションの現状

図1 Synapse 多臓器データセットセグメンテーションの予測画像比較例
表1 は、Synapse 多臓器データセットセグメンテーションの定量的比較です。 MSVM-UNet の優位性が示されていますが、どの手法もセグメンテーションする臓器により、その性能に差があることがわかります。特に、Gallbladder(胆嚢)、Kidney(腎臓)、 Pancreas(膵臓)など、小さく、人間の目でも見分けがつきにくい臓器であるほどセグメンテーションの精度が低くなるようです。
表1 Synapse 多臓器データセットセグメンテーションの定量的比較
ここで、DSC (Dice Similarity Coefficient)は、画像セグメンテーションの精度評価によく使用される指標であり、以下のように定義されます。
\[
\mathrm{DSC} = \frac{2 \cdot |G \cap P|}{|G| + |P|}
\]
ここで:
- \(G\) は Ground Truth (真値)
- \(P\) はモデルによる予測値
- \(|G \cap P|\) は Ground Truth と予測値の重なり合う領域の面積(ピクセル数)
- \(|G|\) は Ground Truth の面積(ピクセル数)
- \(|P|\) は予測値の面積(ピクセル数)
また、HD95 (95% Hausdorff Distance; ハウスドルフ距離)は、ground truthと予測値の距離の近さを表す指標の一つであり、 Ground truthのセグメンテーション境界点集合を
、予測値境界点集合を
とすれば、以下の方法で計算されます。
- の各点から に対する最近傍点の距離を計算します。
- 逆に、 の各点から に対する最近傍点の距離を計算します。
- 全ての距離を昇順に並べ、95% の位置の距離が HD95 になります。
この HD95 は、「
95%のセグメンテーション境界点がこの距離以内にある」ことを意味し、残りの5%該当する外れ値の影響を軽減した、より安定した距離指標を与えます。 数式で表すと:
\[
\mathrm{HD95} = \mathrm{percentile}_{95} \left(\left\{ \max\left(\min_{p_j \in P_B} d(g_i, p_j), \min_{g_i \in G_B} d(p_j, g_i)\right)\right\}\right)
\]
ここで、\(d(\cdot,\cdot)\) は2点間の距離を表します。
二次元画像分類・セグメンテーション技術の進展
CNN 系の画像分類・セグメンテーション技術
二次元画像セグメンテーション技術は、ニューロン構造のセグメント化に関する ISBI 細胞追跡チャレンジ 2015 において、他の手法に大差でつけて
UNet(2015) が勝ち取ったことで大きく進展しました。UNetは、4×(畳み込み層2層 + プーリング層1層) の encoder で構成され、パラメータ数も 4.1MB とコンパクトな構造であるにも拘わらず、少ない画像からエンドツーエンドでトレーニングでき、512 x 512 画像のセグメントが、当時の GPU で 1 秒以内でできるようになりました。
Transformer 系の画像分類・セグメンテーション技術
しかし、ViT の汎化性能を高めるためには、大規模なデータセットで学習する必要がある。
BEiT(2022) のように、ImageNet-1K や ImageNet-22Kといった大規模な画像データセットを用いて、
BERT(2018) で事前トレーニングする方法も提案されているが、やはり高い計算コストの制約から大画像での実用化には制限がある。また、ViT は全体的な関係性を捉える能力は高いけれども、局所的な特徴を捉える能力が CNN に比べて劣ることがあるという課題もある。
このような ViT の課題を解決したのが、
SegFormer (2021) や
Swin Transformer など、Hierarchical Transformer(階層的 Transformer)です。階層的 Transformer では、複数の抽象化レベルやスケールを扱います。ViT では、16×16 のパッチを扱いますが、例えば Swin Transformer では、初期の層で小さなパッチ(例えば4×4)を使用して局所的な特徴を抽出し、次第に大きなパッチ(例えば8×8や16×16)にパッチを統合することにより、広範囲な情報も捉えることができます。そして、各層で異なるレベルの抽象化を行うことにより、画像全体のコンテキスト情報ばかりではなく、細部の情報も同時に学習できるので精度が高まります。また、階層的トランスフォーマーは、 ViT に比較して、階層的な情報処理やメモリ階層構造の最適化などにより、 GPU メモリー使用量を削減する工夫が施されています。
Mamba 概要
ここで、状態空間モデルとは、観測できない「状態」と観測される「観測値」を分けて考える数学的なフレームワークです。このモデルでは、時間と共に変化するシステムの内部状態である「状態空間」を推定し、それが観測値にどのように影響を与えるかを分析します。「状態空間」は、潜在的な変数を扱いますので「潜在空間」と呼ばれることもあり、潜在変数で構成された層は「隠れ層」と呼ばれます。
Mamba は、図2に示す通り、"S6":選択的状態空間モデル(S4 with a Selection mechanism and computed with a Scan: Selective SSMs)とも呼ばれ、"S4":構造化状態空間モデル(Structured State Space Sequence models: Structured SSMs)の発展形です。図2 で (Δ, B, C) が時間に依存するのが "S6" であり、時間に依存しないのが "S4" です。ただ、"S4" も "S6" も、 CNN と
RNN の両方を巧みに使用していますので、具体的にはもう少し複雑です。

図2 Mamba: 選択的状態空間モデル(Selective SSMs)
Mamba 系の画像分類・セグメンテーション技術
ViT と同様、入力画像を16×16ピクセルの小さなパッチに分割して自然言語処理のトークンと同様に扱う手法を Mamba に展開したのが
Vision Mamba (Vim:2024) です。この手法は、従来の ViT を高速化し、メモリを節約することができましたが、ViT と同様、全体的な関係性を捉える能力は高いけれども、局所的な特徴を捉える能力が劣るという課題を抱えていますので、その性能にも限界があるようです。
二次元画像分類・セグメンテーション技術の進展
表2 二次元画像分類・セグメンテーション技術の進展
| 分類 | 基本モデル | Encoder (backbone) | (Encoder) Params | 事前学習重み利用の可否 | 計算量 推論速度 (論文) | 精度(論文) | 備考 |
COCO _PQ (*1) | COCO _AP (*2) | ADE20K _mIoU (*3) | ImageNet Top-1 (*4) |
| CNN | UNet(2015) | 4層のFCN(*5) | 4.1M | - | - | セグメンテーションの基本モデル | ISBI細胞追跡チャレンジ(*6)2015で1位 |
| UNet | ResNet50 | 23M | SMPで可 | - | - | - | - | 74.9 | - |
| UNet | ResNet152 (2015) | 58M | SMPで可 | - | - | - | - | 77.8 | ILSVRC 2015の画像分類部門で優勝 |
| UNet++(2018) | 最大4層のネストしたFCN | 23M | SMPで可 | - | 結腸ポリープ、細胞核、肝臓セグメンテーションで、UNet の mIoU 対比 +3.9% | - |
| UNet++ | ResNet50 | 23M | SMPで可 | - | - | - | - | - | - |
| Mask R-CNN (2017) | ResNet-101-FPN | 50-FPN で44M | mmdetection で可 | 5fps (Frames/秒) | - | (35.7:test-dev) | - | - | ICCV2017で最優秀論文賞を受賞,トレーニングが簡単 |
| Mask R-CNN | ResNeXt-101-FPN | 50-FPN で44M | mmdetectionで可 | - | - | (37.1:test-dev) | - | - | ICCV2017で最優秀論文賞を受賞,トレーニングが簡単 |
| UNet | efficientnet (2019) -b5 | 30M | SMPで可 | 9.9 GFLOPs | - | - | - | 83.6 | - |
| UNet | efficientnet-b7 | 66M | SMPで可 | 37 GFLOPs | - | - | - | 84.3 | ILSVRCで2019年当時最高レベル、既存の ConvNet よりも 8.4 倍小さく、推論が 6.1 倍高速 |
| Transformer | UNet | MiT(*7) mit_b2 | 24M | SMPで可 | - | - | - | - | - | - |
| SegFormer (2021) | SegFormer-B2 (SMPのmit_b2) | 24M | SMPで可 | 62.4 GFLOPs | - | (44.6:test-dev) | 47.5 | - | SegFormer-B5のゼロショット堅牢性をPR |
| SegFormer | SegFormer-B4(SMPのmit_b4) | 60M | SMPで可 | 95.7 GFLOPs 15.4fps | - | (46.5:test-dev) | 51.1 | - | - |
| Mask2Former (2022) | ResNet50 | 44M | mmdetectionで可 | 226 GFLOPs 8.6fps | 51.9 | 43.7 | 49.2 | - | トレーニングメモリがMaskFormerの1/3の6GBに減少。パノプティック、インスタンス、セマンティックに使用可 |
| Mask2Former | Swin Transformer -L | 216M | mmdetectionで可 | 868 GFLOPs 4.0fps | 57.8 | 50.1 | 57.7 | - |
| TransNeXt-Base(2024) | TransNeXt | 89.7M | - | 56.3GFLOPs | ? | ? | 53.0 | 86.2 | 時間の経過と共に予測精度が低下する「深度劣化」を回避し、グローバルな視覚と局所的な視覚を併せ持つ Aggregated Attention を導入 |
| UperNet | DeiT(2020) -S | 22M | - | - | - | - | 44.0 | 79.8 | ViTベース |
| UperNet | DeiT-B | 86M | - | - | - | - | - | 81.8 | ViTベース |
| UperNet | BEiT(2022) -base | 87M | BEiT で可 | - | - | - | 45.58 | 83.2 | ViT(Vision Transformer)ベース |
| UperNet | BEiT-large | 305M | BEiTで可 | - | - | - | - | 85.2 | ViTベース |
| Mamba | UperNet | Vision Mamba (Vim:2024) -S | 46M | - | 13M の Vim-Ti で 2.52fps | - | - | 44.9 | 80.3 | 大画像に対しVRAM消費量少ない |
| UNet | Mamba-UNet (2024) | - | - | | CT腹部 segmentation で UNet を2%程度改善 | - |
| UNet | SMM-UNet (2024) | 0.038M? | - | - | 皮膚病変セグメンテーションタスクでIoUで UNet対比 3.48%-3.91%改善 | - |
| UNet | MSVM-UNet (2024) | 36M | - | 15.5 GFLOPs | Synapse多臓器セグメンテーションのDSCでUnet比+10.18%, VM-UNet比+2.62% | - |
(*1) COCO_PQ = SQ × RQ - COCO val2017 with 80 categories データセットで、パノプティックセグメンテーションの性能を測る指標であり、SQはセマンティックセグメンテーションの品質(正しく分類されたピクセルの割合), RQはインスタンスセグメンテーションによって正しく認識されたオブジェクトインスタンスの割合。COCO val2017 with 80 categories には、人物、動物、乗り物、家具など 80 カテゴリに分類された、5,000枚の画像が含まれている。スコアを向上するためには高い汎化性能が要求されます。
【セグメンテーションの種類】
- セマンティックセグメンテーション - 画像内のすべてのピクセルをクラス単位で分類する手法
- インスタンスセグメンテーション - 前景にある同一クラス内の個々のオブジェクトを区別して分類する手法
- パノプティック(Panoptic)セグメンテーション - 画像内のすべてのピクセルをクラス単位で分類し、さらに同一クラス内の個々のオブジェクトを区別して分類する手法
(*2) COCO_AP(Average Precision)= mAP@0.50:0.95 - COCO val2017 with 80 categories データセットで、インスタンスセグメンテーションの性能を評価するための指標であり、各IoU閾値(0.50, 0.55, ..., 0.95)に対するPrecision-Recall(成功率)カーブの下の面積の平均です。スコアを向上するためには高い汎化性能が要求される。古い論文は COCO test-dev データセットを使用(test-dev と表記し括弧書き)。
(*3) ADE20K_mIoU - MITのADE20Kデータセットの mIoU(Mean Intersection over Union)。ADE20K には、人物、空、道路、車、家具など 20,000枚以上の画像が150以上の異なるカテゴリで含まれている。カテゴリあたりの画像数が少ないため、スコアを向上するためには高い汎化性能が要求されます。ここで、IoU (Intersection over Union) は、Ground Truth (G) と 予測値 (P) の重なりを評価する指標で、以下のように定義されます。
\[
\mathrm{IoU} = \frac{|G \cap P|}{|G \cup P|}
\]
- \(|G \cap P|\) は Ground Truth と 予測値の共通部分(重なっている部分)の面積
- \(|G \cup P|\) は Ground Truth と 予測値の和集合の面積
(*4) ImageNet Top-1: 参考のため Encoder 部の画像分類の性能を示す。ImageNet の validation set(「ImageNet-1K」の一部)で、224x224の画像を使用し、モデルが予測した最も確率の高いクラスが正解クラスと一致した割合。
(*5) fully convolutional networks (FCN): CNNのように全結合層を使用せず、全ての層を畳み込み層とプーリング層で構成したネットワーク。UNetでは 4×(畳み込み層2層 + プーリング層1層)の構成になっている。
(*6) "IEEE International Symposium on Biomedical Imaging (ISBI) が開催しているコンペティション":https://biomedicalimaging.org/2024/accepted-challenges-tutorials/ の中の "Cell Tracking Challenge":https://celltrackingchallenge.net/ であり、細胞のセグメンテーションと追跡のアルゴリズム開発に焦点を当てている
(*7) Mix Vision Transformer encoders (MiT): SegFormer の階層的Transformerエンコーダ部であり、MiT-B0 ~ MiT-B5がある。データ拡張の一環として、Mixup, CutMixという2種類のデータ拡張手法を統合する Mix-ViT と混同しないよう注意。
画像セグメンテーションのデータセットについて